黒柳 英哲 氏 Mr. Kuroyanagi Hidenori

 

 

黒柳 英哲 氏 

 

1980年生まれ。フリーランスとしてアジアでのビジネス支援、NPOのファンドレイジングや企業連携、国内の地域活性化支援などに関わる。低所得や貧困の中で暮らす人々が排除されることのない世界を創るため、マイクロファイナンスとBOPビジネスを支援するリンクルージョン株式会社を設立(2015年4月)。このビジネスモデルで、40億人のためのビジネスアイデアコンテスト最終審査会まで進出された。現在は、ミャンマーを拠点に活動中。

貧困層の生活水準を改善する マイクロファイナンス

 

Q. 黒柳さんは、マイクロファイナンス機関とビジネス提携されていますが、まずはマイクロファイナンスについて教えていただけませんか?

 

世界の人口がおよそ73億人いる中で、

きれいな水にアクセスできない人口が8億人、

電気が来ていない人が15億人、

衛生的なトイレが使えない人口が25億人。

これらのようなベーシックヒューマンニーズにアクセスできない人々が未だかなり多いように、

金融サービスにアクセスできない人々もかなり多いんです。

世界の成人人口の約半分にあたる20億人が公式な金融サービスを利用することができません。

「お金を借りる、預ける、保険を利用する」といった金融サービスって、お金持ちのためじゃないか?とイメージする方も多いかもしれません。

でも、貧しい人々にこそ金融サービスは必要なものなんです。

彼らは日雇い労働などのため、家計が脆弱で毎日一定の収入を得られるわけではありません。常にお金のマネジメントについてはすごく不安定さがつきまとっています。

そんな状況に加えて、もしお父さんが亡くなったら、とても重要な一家の働き手がある日から突然いなくなってしまうということです。例えば生命保険に入っていたら、状況は変わるかもしれません。

彼らの生活はそういったリスクに対してかなり脆弱です。

しかし、金融サービスを通してこの状況を安定させたり、緩和することができます。

 

 

 

例えば、地方や農村では、どこかに雇われて給料を稼ぐというよりも、家の前でモノを売るなどの零細自営業の人たちが多いですが、それにはもちろん元手が必要です。従って、目の前の一日を生きるためのお金を稼ぐことで精一杯であるような人には、商売を始めることや大きくすることは大変です。

このような人たちに対して、マイクロファイナンス機関が元手を貸します。彼らはそのお金でモノを仕入れ、家先や市場、路上で売ります。そして稼いだお金に利子を付けてマイクロファイナンスへ返済する。これを継続することで少しずつお金を増やし、事業を少しずつ大きくしていくことができます。こうして彼らは生活水準を徐々に改善していくことができます。

 

マイクロファイナンスは、主に低所得者層に対しての銀行の役割を担っているのですね。

行っていることは銀行とほぼ同等です。

しかし、お金の貸し借りなど取引の頻度がずっと多いです。

業務が多く複雑なので、本来であればそれらをITシステムで管理する必要があります。

 

—確かに手作業だと人件費が嵩みそう…。

それがミャンマーの場合、今はまだ人件費が安いので、高額なシステム導入費用と比べると人力でやった方が安い場合もあるんです。でもこれはコストだけの問題ではありません。

手作業だとどうしてもミスが起きやすくなってしまいますし、情報活用もできません。

 

 

 

 

貧困下の人々の生活水準の向上に貢献し、

かつ企業の発展も達する"インクルーシブビジネス"とは?

そこで、私たちはミャンマーマイクロファイナンス機関にITシステムを安く提供しています。さらに顧客情報やマイクロファイナンス機関のネットワーク網を利用して、ミャンマー進出を目指す日系企業に対してサポートを行なっていくことでビジネスとしても成り立たせていく事業に取り組んでいます。

 

低所得者層のニーズをビジネスに汲み入れることで、彼らの生活水準の向上に貢献すると同時に、企業も利益を生み出すことができる持続可能なビジネスを創りたいと思っています。

 

 

Q. ビジネスソースとなる顧客情報とはどういったものでしょうか?



 

彼らの家計の収支、住環境や健康状態、子供の教育、そして生活費割り当てといったあらゆる生活状況がそれにあたります。これらを明らかにすることで、例えば彼らにより合う金融サービスや商品を開発することも可能になります。

社会課題解決を目指して、マイクロファイナンス機関は活動をしているわけで、そんな彼らにも顧客である貧しい人々のことを正しく理解することは大変重要です。このような情報をきちんと整理することで、彼らのニーズに合わせて金融商品やサービスを向上していくことができます。

 

そのため、ただITシステムをマイクロファイナンス機関に対して入れて終わりではなく、ソーシャルミッションに取り組む彼らに情報を活用したコンサルティングも同時に行なっています。

Q. 黒柳さんの会社の今後の方針を教えていただけますか?

 

マイクロファイナンスはここミャンマーでも拡がってきましたが、依然として都市部やその周辺に集中しています。この状況を打破するべくITシステムで業務管理コストを下げ、より広範囲の人々に金融サービスが届くようにしていきたいです。

 

 

Q. ミャンマーでもマイクロファイナンス機関から支援を受けられる人というのはかなり限られているのでしょうか?



 

はい。ミャンマーでも都市部周辺にしかまだ普及していない状況です。大体ヤンゴンの中心部から車で1〜2時間の範囲でしょうか。あとは、バゴーやマンダレー周辺など。これらに約160事業者が密集しています。

 

なぜかというと、地方へ行くほど運営費が嵩むためです。マイクロファイナンスの運営は、スタッフを多く必要とします。お金を貸すときも返済してもらうときも人の手で行います。また、それだけでなく定期的に被支援者とミーティングを開催するなど、彼らの金融に対する理解を深める活動も不可欠です。しかし、田舎に行くほど、一定時間で訪問できる家庭も限られてしまうなどより人件費が嵩んでしまうのです。

 

また、マイクロファイナンスであっても、最貧困層の人たちにそのサービスを届けることは依然として難しいです。ビジネスベースである以上は、ターゲットを決めて制限しなければいけないのです。

 

 

人件費などのコストをITシステムで下げ、より収益が得られる持続可能な仕組みを確立して、全ての人々が金融サービスにアクセスできるようにしていきたいと考えています。

 

 

ミャンマーやIDFCについても伺いました!

 

Q. そもそもなぜミャンマーにしたのでしょうか?

 

理由をあげるとしたら2点ありますが、ミャンマーに特別思い入れがあったわけではないです(笑)。

 

1点目は、3年ほど前、日本のNGOのメンバーとして、ミャンマーマイクロファイナンス市場の調査を行いました。これが、ミャンマーマイクロファイナンス市場のポテンシャルを感じるきっかけになりました。

 

2週間ほどミャンマーにも滞在し、今パートナーとなっているマイクロファイナンス機関にもすでに訪れていました。

事業が上手く進んでいるところもあれば、そうでないところも多くありましたが、ニーズが大きいからこそ、健全にマイクロファイナンス市場が成長する必要があると感じました。

 

2点目は、ビジネスの視点からミャンマーマイクロファイナンス市場は入りやすいと考えたからです。

ミャンマーマイクロファイナンスは創業数年の中小規模の機関がほとんどです。

すでにシステムが入っている機関にシステムを変更してもらうより、システムを持っていない機関に新規に導入してもらうほうが楽ですよね。

またより必要とされているところでやった方が、社会的インパクトも大きくなります。

 

 

Q. ミャンマー人と働いていてどうですか?どんなミャンマー人がいますか?

 

ミャンマー人の性格は、日本人に似ているところがあると思います。

彼らはとにかく真面目だなと感じます。

休んでいいと言ったはずなのに全員出勤してきたこともありました。

とっても働き者です。まあ、休んでる人は本当に休んでいますが…笑。

 

会社で働いてくれているミャンマー人だけでなく、例えばマイクロファイナンスの支援を受けている方で、自ら市場調査をしているアクティブなお母さんにも出会いました。

彼女は畑で空心菜を育てているのですが、借りている畑も狭いので月に3回しか市場に売りに行けないんです。他の日は、町中の市場を自転車で回って、村で一番安い空芯菜を見つけて、それを他の高く売れる市場で売ることで収入を得ているんです。転売で収入を得ることは趣味だと言っていましたよ(笑)

 

 

Q. 若者がミャンマーに来るべき理由は何だと思いますか?

 

ミャンマーじゃなくても、どこでもいいんじゃないでしょうか(笑)。

でもIDFCに是非参加してみたらいいのではと思います。

わたしはもともと場当たり的なところがありまして。目の前にある関心が湧くことをとりあえずやってみるということを重ねてきました。

なんやかんや、そのときそのときにやりたいことに一生懸命取り組めたことは良かったなと思っています。

20年先のプランを立ててキャリアを積み上げるというやり方もありますが、そうでないといけないと思う必要はないと思います。

例えば、就活で悩んでいる学生さんがいますが、そこでひたすら悩み続けて立ち止まっていてもしょうがないのかなと。

IDFCに興味があるなら、まずは参加してみたらどうでしょうか。

 

 

Q. IDFCのメンバーの印象を教えてください。

 

橋本くん(初代代表)に、はじめてIDFCについての話を聞いたとき、じゃあ成果は何?と質問したんです。そのとき、「目先の成果はありません」とはっきり言い切ってくれたのがとても気持ち良かったですね。

ミャンマーと日本の学生が、ともに真剣に取り組みながら密になっていけば、それが無形の形として残り、それが将来、彼ら自身や社会に寄与すると思っているんです。」といったことを言っていて、すっと理解できたのを覚えています。

少ない実行委員で、ミャンマーには事前に1回しか来ていないのに、あれだけのプログラムを作れるのはすごいなと思っています。

こんなに用意された舞台はないんじゃないでしょうか。

 

 

Q. さいごに、黒柳さんにとってミャンマーとはどんな国でしょうか?

・・・ただ住んでいる場所です(笑)。

あなたにとって東京はなんですかと言われているのと同じですよ。

ミャンマーだからというより、取り組みたいことがある国がミャンマーだったというのが正直なところです。

実際、ミャンマーだからという理由で来ている人よりも、何かやりたいことがあって、それがミャンマーでできるから来たという人の方が多いなあと感じます。

 

そう考えると、いろんな人が興味を持てる国であり、可能性が広い国なのではないでしょうか。